地雷危険回避教育⑮
5月27日(火)
昨年度,当団体で実施した地雷危険回避教育について,最終報告をいたします。
●事業概要
・名称
地雷原エリアの小学校・中学校における,地雷・不発弾回避と障害者人権の理解を目的とした教育活動
・事業の目的
1)地雷・不発弾の危険性を啓蒙し,特に子どもたちの新たな地雷・不発弾被害を減少させる
2)地雷・不発弾被害者をはじめとする障害者の方々が抱えている苦労や悩みを子どもたちに理解してもらい,障害者に対する差別・偏見をなくす。
・対象地
バッタンバン州,パイリン特別市,バンテアイミエンチェイ州
●事業の振り返り
・事業の結果
<5月>
本事業実施に当たり,カンボジア政府直轄の地雷撤去機関であるCMACに協力を依頼し,承諾をもらう。CMACのMRE担当者より「MREは男女1名ずつのペアで実施するのがよい」との指示を受け,男性1名女性1名を募集し,筆記試験及び面接試験にて選考。ラブット,ソカーをMREスタッフとして,またMREスタッフの選考には漏れたがここでCMCスタッフとしてダラーを選考した。

事務所にてMREスタッフ採用試験

左からダラー,ソカー,ラブット
<6月>
CMC事務所にてCMAC担当者による「地雷・不発弾」や「MRE」についての講義を実施。また,カンボジア西部の中からMREの必要性が高い地区を選定。選定した地区は以下の通り。
・バッタンバン州ラタナックモンドル郡
・バッタンバン州コックロロー郡
・バッタンバン州ソムロート郡
・パイリン特別市パイリン郡
・パイリン特別市サラークラウ郡
・バンテアイミエンチェイ州オーチュラウ郡
・バンテアイミエンチェイ州マライ郡
<7月>
MRE実施の対象となる州教育局,郡教育事務所,郡役場へ活動申請を行う。申請が受理された後,活動地区を調査,実施地区(村)を選定する。※バンテアイミエンチェイ州は11月に申請し,受理された。

役場や教育事務所への活動申請
<8月~9月>
学校へ通っていない子どもたちを対象としたMRE活動を実施。実施した地区の村の数及び子どもの数は以下の通り。ただし,この中には実際は学校へ通っている子も少なからず含まれている(詳細は不明)。
・バッタンバン州ラタナックモンドル郡;5村170人
・バッタンバン州コックロロ-郡;4村97人
・バッタンバン州ソムロート郡;4村61人
・パイリン特別市パイリン郡;10村198人
・パイリン特別市州サラークラウ郡;5村136人

学校に通っていない子を対象としたMRE活動(写真はラタナックモンドル郡トラエン町プチエウ村)
<11月~1月>
小・中学校にてMRE活動を実施。実施した各地区の学校数及び児童・生徒数は以下の通り。
・バッタンバン州ラタナックモンドル郡;小学校4校200人,中学校1校117人
・バッタンバン州コックロロ-郡;小学校4校183人,中学校1校71人
・バッタンバン州ソムロート郡;小学校2校107人,中学校1校188人
・パイリン特別市パイリン郡;小学校4校340人,中学校2校157人
・パイリン特別市州サラークラウ郡;小学校4校480人,中学校1校137人
・バンテアイミエンチェイ州オーチュラウ郡;小学校4校196人,中学校1校99人
・バンテアイミエンチェイ州マライ郡;小学校5校473人,中学校1校123人

小学校でのMRE。写真はラタナックモンドル郡プームカンダール小学校。

中学校でのMRE。写真はサラークラウ郡ソンテピアップ中学校。
<12月~2月>
人権教育用冊子500冊作成およびモニタリング調査。モニタリング調査は地雷・不発弾の危険回避などに関して,小学生用(1年生~6年生用)及び中学生用(7年生~9年生用)の2種類の問題用紙を作成してそれぞれ実施。
小学生用試験は以下の2問。
第1問(左側);地雷を表す記号もしくは目印を絵の中から選ぶ問題(正解は3つ)。
第2問(右側);地雷に遭遇した時の対処を絵の中から選ぶ問題(正解は3つ)。

小学生用試験用紙
■小学校27校で実施したMRE及びモニタリングの学年毎の結果
| 小学校 |
1年 |
2年 |
3年 |
4年 |
5年 |
6年 |
合計 |
| MRE受講数 |
243 |
261 |
313 |
425 |
416 |
321 |
1979 |
| モニタリング受講数 |
183 |
185 |
267 |
418 |
431 |
278 |
1762 |
| 問題1の正答率(%) |
97.8 |
95.4 |
96.1 |
96.2 |
94.6 |
97.1 |
97.0 |
| 問題2の正答率(%) |
93.9 |
76.3 |
93.6 |
87.3 |
85.7 |
93.8 |
89.3 |
2問とも基本的な知識を問うものであり,全員が正解すべき問題である。結果を見る限り概ね出来ているものと見なせる。第2問はやや正解率が下がっているが,地雷に遭遇した時の対処として,「周辺の草取りをする」「周辺の掃除をする」「目印になる木を植える」「ゴミ箱に捨てる」などの選択肢を選んだ児童がある程度いたことによる。「歌う」「踊る」「絵を描く」を選んだものもいたがそれらはそもそも問題を理解していないと考えられる。
中学生用試験は以下の5問。
第1問(左中);地雷・不発弾に遭遇した時の対処を問うもの(記述回答)。
第2問(左下);カンボジアに存在する地雷の種類数を問うもの(4つの中から選択)。
第3問(右上);第3問はカンボジア国内に敷設されている地雷の数(推定値)を問うもの(4つの中から選択)。
第4問(右中);地雷を表す3つの目印もしくは記号の名称を問うもの(記述)。
第5問(右下);今回MREを受講した感想。

中学生用試験用紙。
■中学校8校で実施したMRE及びモニタリングの学年毎の結果(第1問と第5問は省略。)
| 中学校 |
1年 |
2年 |
3年 |
合計 |
| MRE受講数 |
384 |
310 |
198 |
892 |
| モニタリング受講数 |
375 |
276 |
195 |
846 |
| 質問2正答率(%) |
90.7 |
84.4 |
89.7 |
88.4 |
| 質問3正答率(%) |
62.9 |
80.4 |
82.1 |
73.0 |
| 質問4-1正答率(%) |
98.4 |
98.9 |
97.9 |
98.7 |
| 質問4-2正答率(%) |
98.9 |
98.6 |
97.9 |
98.6 |
| 質問4-3正答率(%) |
98.9 |
98.2 |
97.4 |
98.3 |
中学生へはやや踏み込んだ問題を用意したが,ここでも概ね出来ていた。ただし,地雷被害を防ぐための知識を問うのが趣旨であり,よほどひどいものでない限り(何が言いたいかこちらが読み取れれば)誤字脱字等は大目に見て正解とした。
・事業結果についての評価(所感、および反省点など)
子どもたちに地雷・不発弾の危険性を啓蒙するという目的のもと,対象地区において小学校27校,中学校8校で延べ2800人以上(8~9月の学校へ行っていない子どもを対象としたMREを含めれば延べ3000人以上)の子どもに対して無事にMREを実施できました。また村長や学校の校長,クラス担当の先生など子どもを指導する立場の人にも活動を理解してもらい,協力してもらえたことは,今回のMRE事業が一過性のものに終わらないようにするためにも良かったといえます。ただしクラス担当の先生が皆立ち会ってくれたわけではなく,そこは反省点となります。

担任の先生も前に出て説明を加えてくれています。写真はコックロロー郡プレアポ小学校。
またアンケート調査から子どもを取り巻く環境が一部ではありますが見えたことも今後の対策に繋がります。以下にアンケート調査結果を示します。括弧内は各学年での割合(地雷もしくは不発弾を見たことがある児童・生徒数÷児童・生徒数)です。
|
小学校全27校 |
中学校全8校 |
| 学年 |
1年 |
2年 |
3年 |
4年 |
5年 |
6年 |
7年 |
8年 |
9年 |
| 児童・生徒数 |
243 |
263 |
311 |
425 |
416 |
321 |
384 |
310 |
198 |
| 地雷を見たことがある児童・生徒数 |
31
(13%) |
59
(22%) |
119
(38%) |
184
(43%) |
219
(53%) |
176
(55%) |
213
(55%) |
211
(68%) |
102
(52%) |
| 不発弾を見たことがある児童・生徒数 |
46
(19%) |
68
(26%) |
94
(30%) |
165
(39%) |
211
(51%) |
135
(42%) |
195
(51%) |
187
(60%) |
96
(48%) |
この調査はMRE実施時に子どもたちにアンケート用紙を配り,各自記入してもらったものです(小学1,2年生の多くはまだ字が書けないのでMREスタッフや先生が代筆しました)。子どもたちのほとんどがこのようなアンケート調査に慣れていない中,MREスタッフが丁寧に巡回指導を行って子どもに記入させましたが,正確にこちらの意図を理解していない子どもも少なからずいました。従って,数値自体は正確性を欠いていると言わざるを得ません。それでも実態を探る上で大いに参考になりました。実際,アンケート調査で不発弾を見たことがあると回答した子どもに不発弾の落ちている場所を教えてもらい行ってみたことがありましたが,確かにそこには不発弾が転がっており,それも村人や子どもたちが頻繁に往来するごく普通の道路わきの草陰でした。

写真中央,木の葉の間から不発弾(瓶のような形)が見えます。場所はコックロロー郡チュナルモアン町ソムラオン村
またアンケート調査を通して,情報共有や子どもたちへの意識づけもできました。地雷・不発弾撤去作業は優先順位もあり,すべての地雷・不発弾を見つけ次第一気に撤去できるものではありません。それゆえ,その存在を皆で共有することはとても大事です。子どもたちには改めて「身近に存在するその物体が危険なものである」ということと「危険な爆発物が身近に存在する」ことを意識させることができました。

地雷を見たことがある子たちに自分が見たという地雷を一斉に指さしてもらった。多くの子が地雷及び不発弾を見た経験を持ち,なおかつその種類も様々あるようだ。写真はコックロロー郡ソムラオン小学校。
・本事業の中長期展望(計画)
地雷撤去機関による地雷・不発弾の撤去は着実に進んでおり,地雷事故件数は年々減少しています。また,住民の地雷・不発弾に対する危機意識もかなり進んでおり,一時期の悲惨な状況からは大幅に改善してきています。しかし,地雷・不発弾事故が無くなったわけではなく,いまだに事故は発生しています。撤去されていない地雷・不発弾はまだ相当数残っており(400万~600万と言われている),事故の危険性がなくなったとは到底言えません。実際,かなりの数の子どもが地雷もしくは不発弾を見たことがあると証言していることからも,地域住民にとっては地雷・不発弾は身近な存在であり,常にその意識を持って生活する必要があります。
下表はカンボジア地雷/不発弾被害者情報センターが月ごとに公表している地雷・不発弾被害者数(http://www.cmaa.gov.kh/e_library.php?catid=12)をMRE対象地区における年度別地雷・不発弾被害者数としてまとめたものです。一時的な増加はあるものの年々着実に減少しているのが分かります。しかし,MRE事業を実施した今年度についてみてみると,残念なことに6歳から18歳まで(カンボジアにおける学齢期の子ども)の被害者数はMREを実施した今年度は昨年度の9人から13人に増加しています。しかもこの中には興味本位で不発弾を触った(叩いた)ために死亡したケースも含まれます。事故に遭った13人は今回のMREは受講していなかったようですが,それでも啓蒙活動を行っているすぐ近くの地域で子どもが事故に遭ったという事実は重く受け止めなければなりません。我々としては,啓蒙活動を続けることで状況の改善は図っていくほかありません。
表.年度別地雷・不発弾被害者数
| 年度 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
| 全国の被害者数 |
630 |
411 |
340 |
272 |
229 |
285 |
223 |
147 |
133 |
| MRE対象地区の被害者数 |
204 |
95 |
76 |
109 |
40 |
73 |
47 |
52 |
36 |
| MRE対象地区のこども被害者数(6~18歳) |
36 |
19 |
26 |
34 |
10 |
14 |
13 |
9 |
13 |
※今回のMRE事業に合わせて,日本の年度でまとめています。例えば,2013年度は2013年4月から2014年3月まで。
ほとんどの子どもは家族や先生から何らかの形で地雷や不発弾の話を聞いており,知識としては持っています。特に小学校3年生と5年生の社会科の学習の中で,「地雷」について扱われている単元があり,それが「地雷」について学ぶ貴重な機会となっています。しかし,これは防災訓練のように適切な対処方法を学ぶというレベルではありません。日本の学校が定期的に防災訓練を行うように,カンボジアも定期的に注意喚起と防災対策を目的として,MREを実施することが望ましいように思いますが,カンボジアの学校現場においては,教師個人がいろいろと話して聞かせるということはあったとしても,学校としてそのような活動を行うことはありません(教育省の鶴の一声で突然始まるということは可能性としてあり得ますが)。それ故に,MREのような課外活動はCMACなどの地雷撤去機関やNGOがその役を担うことになるわけです。
またこのMRE活動の中では,危険回避教育と併せて,地雷被害者への偏見や差別をなくすための人権教育の要素も盛り込んでいますが,さらに踏み込んで平和教育にもつなげていけたらとも考えています。世界有数の地雷被害国としての教訓をもとに,問題を風化させることなく,同じ過ちを繰り返さないという思いを子どもたちに持ってもらい,それが脈々と受け継がれるような環境作りをこの事業の中で目指していきたいところです。今回,CMCは初めてMREを独自に実施しましたが,回数を重ねるごとに修正を加え改善していき,MREの一つのモデルができつつあります。今年度も引き続きこのMRE事業を行うことになっており,昨年度の反省を生かしながらより充実したMRE事業を展開できればと考えております。
文責:曽田実
2014年5月27日更新